聴こえないから、仕組みを作る ― 難聴エンジニアの仕事術

耳はiPhone+目は文字起こしという難聴エンジニアの二刀流を示したアイキャッチ

前回の記事「自由を追いかけて帯状疱疹になった私が、それでも「仕組み化」を辞めなかった理由」では、自由を求めてきた道のりを書きました。今回はその続き、第2章です。「では実際に、どう働いているのか」の話をします。

健聴の人は、耳ひとつで会議を聞きます。
でも私は違います。耳と目、二刀流で仕事をしています。

聴こえないことは、たしかにハンデです。でも私はある時から考え方を変えました。
「聴こえないなら、聴こえなくても回る“仕組み”を作ればいい」と。
今日はその仕事術を、できるだけ具体的にお話しします。

まず、聞く環境を「二重化」する

私の会議は、音声と文字が同時に走っています。

  • :iPhoneから補聴器へ、Bluetoothで直接音を飛ばす
  • :Teamsの文字起こしを表示して、情報保障を強める

ここで大事なのが、どうやって音を耳に届けるかです。

今の補聴器には、Bluetoothの機能が入っています。だからiPhoneとそのままつながります。私が使っているのはワイデックスのEVOKEという補聴器です。あいだに別の機械をはさまなくても、iPhoneの音がそのまま耳に届きます。会社でもプライベートでも、私はいつもこの方法です。

ただ、ここに行き着くまでは、もっと泥臭くやっていました。当時使っていたのは、なんとギター用の機材です。

エレキギターをiPhoneにつなぐ「iRig」という製品(私が使ったのは初代)を、パソコンのイヤホンジャックに挿す。するとパソコンの音がiPhoneに流れ込むので、UDトークでその音をそのまま文字にできます。

つぎに、そのiRigのイヤホン差込口から、補聴器へ音を送ります。ここは2通り試しました。ワイデックスの「UNI-DEX」という、首からさげて使う小さな機械。もうひとつは、自立コムの耳にひっかけるタイプの機械で、こちらは磁石の力を使って補聴器に音を送ります。どちらも、補聴器のスイッチを切りかえて使います。

つまり、1本の音を、目と耳に同時に配っていたわけです。スピーカーを通さないので、文字起こしの精度も上がりました。

そして今、この配線は全部なくなりました。補聴器がBluetoothでiPhoneと直接つながり、文字起こしはTeamsが標準でやってくれるからです。

ひとつだけ付け足します。さっき出てきた「磁石の力で音を送る仕組み」は、テレコイル(磁気ループ)と呼ばれています。自分で使っていたからこそ言えるのですが、この方法は音が悪くなります。低い音がうまく届かないので、声が薄っぺらく聞こえるのです。だから今の私は、あまりおすすめしていません。

そのかわり、Auracastという新しい仕組みが出てきました。これから駅や劇場の音は、こちらで届くようになっていくはずです。

仕組みは、道具が進化すればシンプルになる。でも、道具が揃うまで待っていたら、あの数年間は仕事になりませんでした。

ポイントはひとつの方法に頼らないこと。耳で取りこぼしても目で拾う。取りこぼしを“仕組み”で潰す——これが二刀流の発想です。

聴こえない前提で、仕事ごと自動化する

私は「電話」「口頭」「その場で聞く」を、できる限りテキストと自動化に置き換えてきました。

たとえば私の朝。PythonとGAS(Google Apps Script)が前日のデータを夜中のうちに自動集計して、朝3時には主要な数字が全部テキストで勝手に届くようになっています。売上レポートも、お金の動きも、自分が動かなくても通知が来る。誰かに電話で聞く必要も、聞き返す必要もありません。

聴こえないからこそ、「音を前提にしない設計」が体に染みついています。これは実は、難聴エンジニアだけが持てる強い視点なんです。

でも、最強の仕組みは「もう一度言ってください!」

ここまでAI、自動化、機材と、テクノロジーの話をしてきましたが——一番強い武器は、実はもっとシンプルです。

聴こえなかったら、
普通に「もう一度言ってください!」と言えばいい。

相手は人間です。わからないことを、わからないままにするのが一番最悪なんです。

だから私は、自分の弱みを堂々と言います。
「分析とコードは得意です。PC操作で効率化をするのに夢中になります。でも文章作成は苦手です」と、隠さずはっきり言う。

弱みを隠す人より、弱みを言える人のほうが強い。私はそう思っています。

弱みを言える人は、ちゃんと武器を持っている

なぜ堂々と弱みを言えるのか。それは武器があるからです。
会社は多くの場合、「得意なもの=即戦力」で人を見ます。だからこそ、自分の武器を持ちましょう。

武器がなければ、趣味からで構いません。「なぜ自分はこれに夢中になるのか?」を自己分析してください。
そして今は、最高の道具があります。AIやストレングスファインダーです。これを使って強みを言語化し、点と点をつなぐんです。

試しに、私が自分の実績をAIに並べて「強みは何?」と分析させてみました。返ってきたのはこれです。

「当事者として本物の課題を見つけ、AIを指揮して、動く仕組みに仕上げて、つなぐ人」

コードが書ける・分析が得意、は“素材”にすぎない。本当の強みは、その上で「発見→構想→完遂→統合」を一人で回せることだ——と。
自分でも気づいていなかった輪郭が、AIによってくっきり言語化されました。これは自分でやらないと、絶対に見つかりません。

強みは変わっていい。目標は「自由になる」こと

最後にひとつ。
ここで書いた強みは、あくまで“今の”私です。

私は変化を好みます。だから1ヶ月後、1年後、10年後には、私の強みはまた変わっているはずです。
なぜなら、私の目標は「自由になる」ことだから。

強みは固定しなくていい。変わっていい。
人生は一度きりです。やらない後悔より、やる後悔を、とことん実行しましょう。

この記事を書いた人
とおる

両耳が聞こえにくい会社員です。障害者雇用の枠で働きながら、副業でせどりもしています。
聞こえないぶんは、AIと仕組みで補っています。補聴器とiPhoneを直結し、会議は字幕を使い、面倒な作業は自動で終わらせる。そんな日々の工夫を、専門用語なしで書いています。
妻と中学生の娘との3人家族です。

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