「面接で聞き返してしまったら、落とされるかもしれない」
「電話に出られませんと言ったら、それだけで終わりかもしれない」
仕事を探しているとき、こういう不安が頭から離れなくなります。私も感音性難聴で補聴器を使っているので、この気持ちはよくわかります。応募する前から、自分で候補を減らしてしまうのです。
先に、私がどうしたかを書きます。
私は、障害者の就職を専門にしている転職エージェント3社に登録して、聴覚障害があることを会社に伝えたうえで応募しました。面接では「できないこと」ではなく「この条件ならできること」を伝えました。そうして、いまの会社に障害者雇用枠で入っています。
なぜそれで通ったのか。会社の側にも、障害のある人を雇う理由があるからです。
この記事では、私が実際にやったことを先に書いて、そのあとに「なぜそれが通るのか」という制度のしくみを説明します。

まず、私がやったことから書きます。制度の話は、そのあとです。
この記事でわかること
- 私が障害者雇用枠で就職するまでに、実際にやった4つのこと
- 面接で配慮を伝えるとき、「お願い」ではなく「条件」にした理由
- その裏側で動いている制度(2026年7月に変わったばかりです)
- 転職はリスクでも、転職活動はいつでもできるという話
聴覚障害の私が、就職までにやった4つのこと
1. 障害者専門の転職エージェントに、3社登録した
1社ではなく、3社です。会社によって紹介してくれる求人が違うからです。
そしてもう一つ、3社にした理由があります。担当者によって、動き方がまったく違うからです。こちらの希望をくんで積極的に提案してくれる人もいれば、そうでない人もいます。1社だけだと、たまたま合わない担当者に当たったときに、そこで止まってしまいます。
ありがたかったのは、面接の受け答えを一緒に練習してくれたことです。模擬面接もしてもらいました。本番前に一度でも声に出しておくと、当日の落ち着き方がまるで違います。ここは遠慮せずに頼んでいい部分だと思います。
そしてこの登録は、働きながら、仕事の隙間時間を使って進めました。まとまった時間を取れたわけではありません。いまの仕事をこなしながら、空いた時間を少しずつ使いました。
辞めてから探し始める必要はありません。私もそうしませんでした。
2. 聴覚障害があることを、書類の段階で伝えてもらった
エージェントを使ってよかったことが、一つはっきりあります。
聴覚障害があることが、書類の段階ですでに会社に伝わっているということです。
これは、思っているより大きいことでした。自分で切り出す必要がありません。「いつ言おう」「言ったら空気が変わるだろうか」と面接中に考えなくて済みます。会社は、聴覚障害があることを知ったうえで会ってくれています。だから最初から、仕事の話ができます。
私の場合、不安の一つは「いつ伝えるか」でした。それを先に済ませてしまうだけでも、面接はかなり楽になりました。
3. 「経営の立場だったら、誰を雇うか」を考えて準備した
ここは私の個人的なやり方です。
面接の準備をするとき、私は立場を入れかえて考えるようにしました。自分が経営する側だったら、どんな人を雇いたいだろう、と。動画などでも情報を集めて、会社は何を見ているのかを調べました。
この見方に立つと、伝えることが変わります。
「配慮してほしいこと」だけを並べるのではなく、「この条件があれば、私はこれだけの仕事ができます」という形になります。会社は、それなら判断ができます。
次に書くことは、ここから出てきたものです。
4. 配慮を「お願い」ではなく「条件」として伝えた
面接では、必要な配慮も伝えました。私が言ったのは、この2つです。
- 1対1の話し合いなら、問題なくできます
- 3人以上の会議では、情報保障をつけてほしいです
情報保障というのは、聴こえにくい人にも話の中身が届くようにする工夫のことです。文字にする、書いて渡すなど、やり方はいろいろあります。
私の場合は、具体的に2つ挙げました。
- 話を文字にできるツールが使えること
- 会社で使う端末がiPhoneで、補聴器とBluetoothでつながること
2つめは、少し説明が要ると思います。補聴器はBluetoothで、iPhoneの音を直接受け取ることができます。オンライン会議の音が、そのまま耳元に届くということです。
以前は、そうではありませんでした。会議のたびに機器をつなぐ準備が必要で、これがとても手間だったのです。準備に手間がかかると、会議に出ること自体が重くなります。直接つながるようになって、その手間が消えました。会議に出るハードルが下がったのです。
ここが大事なところです。「できません」ではなく「この条件があればできます」の形で伝えました。

伝える中身は同じでも、向きを変えるだけで受け取られ方が変わります。
「聞こえないので配慮をお願いします」だけだと、会社は何をすればいいのか分かりません。でも「3人以上の会議では、文字にできるツールが必要です」なら、会社は判断できます。用意できるかどうかを考えればいいだけだからです。
配慮は、隠すものではありません。伝えて、はじめて働く情報です。言葉にしておくことは、自分を守る道具になります。
では、なぜ会社は障害のある人を採用するのでしょうか
ここからは、その背景にある決まりの話です。
日本には、一定の規模より大きい会社に対して「働く人のうち、決められた割合の障害者を雇ってください」と求める決まりがあります。これを法定雇用率といいます。会社の善意に任せるのではなく、数字のルールとして決まっている、というのがポイントです。
この数字が、2026年7月1日から 2.5% → 2.7% に上がりました。
同時に、義務のある会社の範囲も広がりました。これまでは働く人が40.0人以上の会社が対象でしたが、いまは37.5人以上の会社が対象です。つまり「障害のある人を雇わなければいけない会社」が、前より増えたということです。
聴覚障害も、もちろんこの決まりの中に入っています。「難聴だから制度の外」ではありません。
(制度の内容は、厚生労働省の障害者雇用対策のページにまとまっています)
足りない会社は、毎月5万円を負担しています
では、決められた割合を雇えていない会社は、どうなるのでしょうか。
働く人が100人を超える会社の場合、足りない1人につき、毎月5万円を納めることになります。これを障害者雇用納付金といいます。
ここで大事なのは、これが罰金ではないということです。悪いことをしたから取られるお金ではありません。障害者を雇うと、設備や体制にお金がかかることがあります。雇っている会社と雇っていない会社のあいだで、その負担を調整するためのお金です。

ここ、勘違いされやすいところです。罰金ではありません。
集められたお金は、多く雇っている会社に配られます。調整金や報奨金と呼ばれるものです。ただし「たくさん雇えば必ずもらえる」という単純なものではなく、会社の規模や人数に応じた細かい条件があります。
大まかに言うと、こうなっています。
- 100人を超える会社で、決められた割合に足りない → 納付金を負担する
- 一定の条件を満たして多く雇っている → 調整金や報奨金を受け取れる
つまり会社には、障害者雇用を進める法律上の理由があり、それを支えるお金のしくみも用意されている、ということです。
(納付金のしくみは、高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のページに詳しく載っています)
聴覚障害の場合、手帳が雇用率のカギになります
ここは、就職する側にとっていちばん実際に関わる話です。
会社が「うちは何人雇っている」と数えるとき、身体障害は原則として身体障害者手帳で確認されます。聴きとりに苦労していても、手帳の対象になっていなければ、身体障害者としては数えられません。
聴覚障害の手帳は、2級・3級・4級・6級の4つです(1級と5級はありません)。いちばん重いのが2級です。
そして、重度(1級・2級)にあたる人をフルタイムで雇うと、1人を2人として数えます。ダブルカウントと呼ばれる決まりです。ただしこれは働く時間によって変わり、短い時間で働く場合は数え方が違ってきます。細かい計算方法はここでは省きますが、「等級と働く時間で数え方が変わる」とだけ覚えておけば十分です。
私は、身体障害者手帳を持っています。
これは、応募する側から見ると小さくない意味を持ちます。手帳があれば、会社が達成しなければならない人数に、自分が数えられるということだからです。
転職はリスクですが、転職活動はいつでもできます
最後に、いちばん伝えたいことを書きます。
転職そのものは、大きな決断です。慎重になって当然だと思います。
でも、転職活動のほうは、いつでも始められて、いつでもやめられます。応募して、話を聞いて、合わなければ断ればいいだけです。ここを分けて考えると、ぐっと動きやすくなります。
そして動いてみると、分かることがあります。いまの自分が、外からどう見られているのか。同じような仕事で、だいたいどのくらいの給料が出ているのか。自分の立ち位置が見えてきます。これは、いまの会社の中にいるだけでは分かりません。
だから私は、辞めるかどうかとは切り離して、活動そのものは一度やってみることをおすすめします。

合わなければ断ればいいだけです。失うものはありません。
まとめ
聴覚障害があると就職で不利だ、という実感は、確かにあると思います。私にもありました。
でも、不利なだけではありません。その裏側では、こういうしくみが動いています。
- 会社には、決められた割合で障害者を雇う義務がある(2026年7月から2.7%)
- 100人を超える会社で人数が足りない場合は、足りない1人につき毎月5万円を負担している
- 一定の条件を満たして多く雇っている会社は、お金を受け取れる
- その数に入るかどうかは、手帳が関わってくる
お情けで雇ってもらう話ではありません。 会社の側にも理由があって、そこに自分が応える話です。同じ採用でも、この二つはまったく違います。頭を下げて席を分けてもらうのではなく、お互いに理由があって手を結ぶ。そう思えるだけで、応募のときの背筋の伸び方が変わります。
最後に、今日からできることを2つだけ書いておきます。
- 障害者専門の転職エージェントを、一度のぞいてみること。 ハローワークにも、障害のある人向けの窓口があります。今すぐ辞める必要はありません。私も、働きながら隙間時間で登録しました。
- 面接で伝えることを、いまのうちに言葉にしておくこと。 「できません」ではなく「この条件があればできます」の形にしておくと、聞かれたときに困りません。
制約は、知っておけば、こちら側の材料にできます。
※この記事は、私が調べて整理した制度の話と、私自身の体験です。個別の就職や、制度が使えるかどうかを保証するものではありません。数字や条件は変わることがあるので、最後は必ず上に挙げた公的なページで確かめてください。


