難聴の私が職場でお願いした配慮|「合理的配慮」という言葉を使わずに伝えてきたこと

「合理的配慮」と、一度も言っていない。それでも、配慮は成り立っています。という文字と、左に手つかずの申請書、右で同僚とふつうに話している男性を描いたアイキャッチ

職場に、聴こえのことをどう伝えればいいのか。

言えば迷惑がられないか。どこまでお願いしていいのか。そもそも、なんて言えばいいのか。

私は感音性難聴で、両耳に補聴器をつけて働いています。今の職場では、必要な配慮をしてもらいながら仕事をしています。

でも私は、「合理的配慮」という言葉を、会社で一度も口に出したことがありません。書類を出したこともありません。それでも、配慮は成り立っています。

代わりにやってきたのは、制度の言葉を使わずに、困っていることと、してほしいことを、普通の言葉で伝えることでした。この記事は、その中身の話です。うまくいった話だけでなく、自分から提案したのに、やらずに止まっていることも正直に書きます。

この記事でわかること

  • 新しい人に会ったとき、私が実際に言っているセリフ(そのまま載せます)
  • 「合理的配慮」と言わなくても配慮が成り立っている理由
  • お願いするより先に「知ってもらう」ほうが効いた、という私の経験

面接でどう伝えたかは難聴の私が、面接を怖いと思わない理由に書きました。この記事は、入社したあとの、日ごろの職場の話です。

新しい人には、自分から言っています

私は、聴こえのことを自分から言います。相手が誰であっても、新しく会う人にはきちんと言います。

実際に言っているのは、こんな言葉です。

オフィスの打ち合わせスペースで、40代前半でメガネと補聴器をつけた男性が、手ぶりを交えながら向かいの同僚に自分から話しかけている

「私はこう見えても普通に見えますが、耳が聞こえません。なので、左側から話してもらえると助かります。また、聞きづらいこともありますので、その時はもう一度お願いするかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」

短いですが、この中に3つのことが入っています。

  1. 見た目では分からない、と先に言う
  2. どうしてほしいかを言う(私は左のほうが聞こえます)
  3. これから起きることを予告する(もう一度お願いします、と先に言っておく)
ひらめいたカワウソ
とおる

先に言っておくと、あとで聞き返すのがずっと楽になります。

3つめが、自分では効いていると思っています。あとで聞き返したとき、相手にとっては「さっき言っていたやつだ」になります。急に聞き返されるのとは、受け取られ方が違います。

会議の席で、私が「そこに座らせてください」と言わなくても、まわりが自然と左側を空けてくれるようになったのも、これを先に言ってあるからです。その話は難聴で会議が聞こえない私が、会議の前と後にやっていることに書きました。

「合理的配慮」という言葉は、使っていません

ここからが、この記事で書きたかったことです。

私は、会社で「合理的配慮をお願いします」と言ったことがありません。申請書を書いたこともありません。

では、なぜ配慮が成り立っているのか。理由は2つあると思っています。

ひとつは、管理職の人が、私の上司に先に話を通してくれたこと。私が知らないところで、根回しをしてくれていました。

もうひとつは、できないことを、私が日ごろから言っていることです。会議の議事録は引き受けられない。外部との電話は避けたい。そういうことを、その都度きちんと伝えてきました。だから、まわりもそれなりに分かってくれています。

つまり私の場合、配慮は「申請」ではなく、日ごろのやりとりの積み重ねでできています。

職場の配慮は、法律で決まっています

言葉は使っていませんが、制度そのものは知っておいて損はないので、短くまとめます。

職場での配慮は、障害者雇用促進法という法律で、平成28年(2016年)4月1日から、すべての会社に義務づけられています。事業所の大きさや業種は関係ありません(厚生労働省)。

知っておくとよいのは、この4つです。

  • 対象は、障害者手帳を持っている人に限られません。心身の機能に障害があって、働くうえで大きな制限を受けている人が対象です
  • 採用のときは、本人からの申し出がきっかけになります。でも入社したあとは、本人が申し出るかどうかに関わらず、会社のほうから「困っていることはないか」を確認することになっています
  • 何をするかは、会社と本人が話し合って決めます
  • ただし、会社にとって「過重な負担」になる場合は、義務から外れます。過重な負担かどうかは、費用や会社の規模など6つのことを合わせて、一件ずつ判断すると決められています

1つめは、けっこう大事だと思います。手帳がなくても、聞こえにくくて困っているなら対象になり得るということです。会社が国に報告する人数(障害者雇用率)のほうは手帳が必要なので、そこは別の話になります。制度全体の話は聴覚障害の就職は「不利」だけじゃないにまとめました。

面白いのは、厚生労働省が会社向けに出している手順書(PDF)に、こう書いてあることです。一緒に働く上司や同僚に、障害の特性と配慮の中身を理解してもらうこと

私の会社が根回しをしてくれたのは、まさにこれでした。私は法律の言葉を一度も使っていませんが、やってもらっていたことは、法律が想定している形とほぼ同じだったわけです。

2つめの「会社のほうから確認する」も、同じだと思います。私は「配慮をください」と申し出たわけではありません。それでも、まわりが動いてくれました。

いちばん厄介だったのは、研修のワークショップでした

配慮があっても、どうにもならない場面はあります。

最近、会社の研修会がありました。その中に、ワークショップがありました。何人かのグループに分かれて、みんなで意見を出し合う時間です。

正直に言います。私にとっては、いちばん厄介なパターンでした。

研修会場でいくつものグループが同時に話し合っている中、40代前半でメガネと補聴器をつけた男性が身を乗り出し、同じグループの人の口元を見ようとしている

理由は、静かな場所ではないからです。同じグループの人の話を聞こうとしても、まわりのグループの声が全部いっぺんに入ってきて、聞きづらいのです。会議室で一人が話す場面なら、字幕や座る位置でなんとかできます。でも、あちこちで同時に話している部屋では、その手が使えません。

このとき私は、その場では何も言いませんでした。

1か月たってから伝えたら、共感が返ってきました

その研修から、1か月ほど過ぎたころです。私は上司に、あのときの話をしました。

上司も、同じワークショップに出ていました。だから話が早かったのだと思います。返ってきたのは、こんな言葉でした。

打ち合わせスペースで、40代前半でメガネと補聴器をつけた男性の話を聞いた上司が、両手を広げて「自分もだった」と共感を返している

「自分も、うまく聞き取れなかった」

「パレットがあれば良いのに」

パレットというのは、人と人の間に立てて、音や視線をさえぎる仕切りのことです。

私は、この返事がうれしかったです。「大変だったね」ではなく、「自分もだった」だったからです。

うれしそうなカワウソ
とおる

「大変だったね」より、「自分もだった」のほうがうれしいのです。

配慮の話をするとき、私たちはつい「お願いする」形から入ろうとします。でもこのときは、お願いをしていません。ただ、困ったことを話しただけです。それでも上司は、自分ごととして受け取って、解決のアイデアまで出してくれました。

共感してもらえた。それだけでも、よかったと思っています。

もうひとつ、1か月あいたことも悪くなかったと思っています。その場ですぐ言えなくても、あとから言っていいのです。私は、その場で言えないまま終わることが、けっこうあります。それでも、あとから伝えれば届きます。

聞き取れなかったことを上司に軽く聞く言い方は、難聴で仕事がつらいときに、私がやっていることにも書きました。

そして、言わないうちに動いてくれました

その後、私が何も言わないうちに、Teamsの文字起こし(話した言葉が文字で出る機能)を使えるように準備してくれたことがありました。

私からは、一言もお願いしていません。

あのときは、本当にうれしかったです。

なぜそうしてくれたのか、理由を確かめたわけではありません。ただ私は、先に言っておいたこと、困ったことを話しておいたこと、その積み重ねが返ってきたのだと感じました。配慮は、お願いした回数ではなく、伝わっている量で決まるのかもしれません。

提案したのに、やっていないこともあります

うまくいった話ばかりにはしたくないので、正直に書きます。

私が職場で使ったときの体感では、Teamsの文字起こしで拾えるのは8割ほどです。もっと拾えるようにできないかと考えて、私はひとつ提案をしました。

会議に出る一人ひとりに、ピンマイクを持ってもらう、というものです。ピンマイクは、服の胸元などにつける小さなマイクのことです。一人ずつマイクがあれば、声がはっきり拾われます。

自分でも「まずは少人数から試してみようか」と思っていました。

そして——なんとなく、やっていません

誰もいない会議室のテーブルに、使われないままのピンマイクとノートが置かれていて、40代前半でメガネと補聴器をつけた男性が頬づえをついてそれを見ている

ばつが悪そうなカワウソ
とおる

止めていたのは、私でした。

反対されたわけではありません。だめだと言われたわけでもありません。ただ、日々の仕事が回っているうちに、そのままになりました。

書いていて思いますが、配慮は、まわりだけの問題ではありません。言い出した私自身が止めていることも、実際にあるのです。ここは、私の宿題として残っています。

お願いより先に、知ってもらう

ここまで書いてきたことを並べると、私がやっていることは、案外シンプルです。

  • 会う人には、自分から先に言う(見た目では分からないので)
  • できないことは、その都度きちんと言っておく
  • 困ったことは、あとからでもいいので話す
  • お願いの形にしなくていい。知ってもらうだけで、動いてくれる人がいる

「合理的配慮」という言葉は、強い言葉です。権利として認められている大事な言葉ですし、必要なときには使うべきだと思います。でも、その言葉を使わないと配慮が受けられない、ということではありません。

私の場合は、日ごろのやりとりのほうが効いています

聞こえないこと自体が、なくなるわけではありません。研修のワークショップのように、まわりが知っていてもどうにもならない場面はあります。

それでも、知られていないことで増える「やりづらさ」は、確かにあります。知らない人は、動きようがないからです。私が減らせたのは、そちらのほうでした。

まとめ

もし今、職場で聴こえのことを言えずにいる方がいたら、ひとつだけ試してみてください。

お願いではなく、報告の形で話してみる。

「この前のあの場面、実は聞き取れませんでした」——それだけでいいと思います。

返ってくる言葉は、相手によって違うでしょう。私の上司のように「自分もだった」と言ってくれる人もいれば、そうでない人もいると思います。

それでも、相手が知ったということは残ります。私にとっては、そこが出発点でした。

もし今の職場での配慮に限界を感じて、転職も選択肢に入ってきたら、私が実際にやったことを「聴覚障害の就職は不利だけじゃない」に書いています。

そのとき私が実際に登録して使った3社のうち、ここでは2社だけ挙げておきます。

どちらも障害者専門の転職エージェントです。まずは求人を見てみるところから始めました。


この記事を書いた人
とおる

両耳が聞こえにくい会社員です。障害者雇用の枠で働きながら、副業でせどりもしています。
聞こえないぶんは、AIと仕組みで補っています。補聴器とiPhoneを直結し、会議は字幕を使い、面倒な作業は自動で終わらせる。そんな日々の工夫を、専門用語なしで書いています。
妻と中学生の娘との3人家族です。

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